競馬

最高のオークス(親父の戯言)

オークスといったらこの年しかない!と自信を持って映像の視聴をお勧めできるのが、1991年イソノルーブルvsシスタートウショウの激闘だ。

約30年前のこのレース、実は私もリアルタイムでは見ていないのだが、競馬を始めて間もない頃、過去10年以上にわたる全重賞レースを閲覧する中で、この年の牝馬クラシック戦線のドラマ性とその結末となったオークスの死闘に胸打たれたのであった。

 

この年はクラシックは牝馬が豊作だった。牡馬戦線はトウカイテイオー一色という感じだったけど、牝馬は桜花賞を迎えるまではハイレベルで混沌とした様相。

その中で無敗の5連勝で桜花賞に駒を進めてきたのがイソノルーブル。

この馬は市場取引馬で、その売却価格の500万円という値は当時にしたって安く感じる。そして、誰も重賞を取ることなど期待もしていなかったような地味なこの馬が、あれよあれよの快進撃で連勝を重ねる様は、「シンデレラ」に例えられた。

 

かたやシスタートウショウ。

こちらも無傷の3連勝でチューリップ賞を勝って桜花賞に駒を進めた。こちらは名門トウショウ牧場が誇るソシアルバターフライ系の出身で、天馬と称されたトウショウボーイの仔。その父の良いところを全て受け継いだ容姿端麗、良家のお嬢様だった。

 

地味な抽選馬vs良家のお嬢様

 

こんなドラマ仕立ての構図があるから競馬は面白い。

ただ、桜花賞の時点でシスタートウショウは不思議と4番人気。無敗のチューリップ賞にしてはあまりに不当な評価だったが、そこにこの世代の牝馬のレベルの高さがうかがえる。

 

果たして2番人気にはノーザンドライバー。

この馬はシスタートウショウと同厩舎で、牡馬相手のデイリー杯、ペガサスSというマイルの重賞を連勝して桜花賞に駒を進めた。牡馬に連勝。人気にもなるわけだ。

3番人気に支持されたのはスカーレットブーケ。

ダイワメジャー、ダイワスカーレットの母馬だ。この馬も牡馬相手の札幌2歳S(1200m)やクイーンC勝ち、前哨戦のチューリップ賞ではシスタートウショウの2着だったものの、本番ではシスターより人気に支持された。これは当時から名門として名高い伊藤雄二厩舎の秘蔵っ子で、自身も良血だったからだろうが、チューリップ賞で完敗した馬に人気で上回っていたのはちょっと驚きだ。

 

さて、そんな役者の揃った桜花賞の発送直前に思いもかけないアクシデントが発生した。

なんと一番人気のイソノルーブルが落鉄してしまったのだ。

時間をかけた悶着の末、結局鉄を打たせることを拒んだルーブルは裸足の状態でレースを走る羽目になってしまった。当然ながら全能力は発揮できない。逃げて4連勝してきた同馬が逃げることさえできずに5着に散った。これが俗に言う、裸足のシンデレラ、イソノルーブルストーリーの序章であった。

そんなイソノルーブルの苦境を尻目に、涼しい顔で悠々と先頭を駆け抜けたのが、不当な4番人気に甘んじていたシスタートウショウであった。この時、四強体制が一瞬にして一強と化したといえるだろう。

 

そして、オークス

主役は当然シスタートウショウ。

もはや一強。今ではその名残すらない単枠指定馬となった(当時は枠連しかなかった時代。今となっては枠連だけなんて味気なさすぎるよね)。

2番人気には、桜花賞は不出走ながら3連勝で忘れな賞を勝ってきた上がり馬ツインヴォイスが支持され、3番人気は桜花賞4着スカーレットブーケ。4着といっても大きく離された完敗だったが、東京コースのクイーンC勝ちが評価されたのだろうか。

 

4番人気にようやくイソノルーブル。

裸足で走った桜花賞が実力負けでないことは明らかだったが、この馬のデビュー戦は1000m。

その後もその快速ぶりで名を馳せていただけに、世間の評価は「距離が長く、おそらく2400mは持たないだろうという」というものだった。

陣営もこの馬が長距離馬だとは思っていなかったろう。逆にだからこそ変な小細工をせず、逃げてどこまで粘れるかという開き直りがあったのではないか。

鞍上の松永幹夫騎手(現調教師)は、1000mを1.01.7と絶妙なラップで逃げた。一度もハロン13秒台を越すことなく、それでいて淡々としたラップはルーブルのスタミナを温存するのに十分だった。

 

かたや桜の女王シスタートウショウも、実はその有り余るスピード能力の高さゆえ、決して距離延長が歓迎のクチではなかった。2000mの福寿草特別は勝ってはいたがそれは能力の違い。

さらに断然の一番人気に支持された今回は、角田晃一騎手(現調教師)の騎乗にも桜花賞ほどのダイナミックさがなく、ハミを噛みすぎることがないようソロリと後方で折り合いに専念。いわば安全運転。

 

ルーブルの逃げは、ラスト800mの地点から12.2-12.1-11.5と巧みにペースアップを図り、ラスト200mを12.0ジャストでまとめてみせた。逃げ馬にこのラップを刻まれては後方に位置する馬はなす術がない。

果たしてイソノルーブルが桜花賞の雪辱を樫の舞台で晴らしたのであった。

 

しかし、本来ならこの絶妙なラップで逃げたルーブル楽勝の流れを、ただ一頭猛追した馬こそがシスタートウショウだった。

ルーブルがラップをあげた時点でシスターはまだ後方18番手付近を追走していた。この位置では、ラスト3Fの地点から11.5の脚を使って後続を離しにかかったルーブルには近寄ることすら難しいと思われるのだが、最終的にはハナ差まで迫った。

いったいシスタートウショウはどれだけの脚を使っていたのだろうか。4コーナーでもまだ15番手という絶望的な位置取りから、まさに天馬の仔らしく飛ぶように直線をかけ上がるさまは、今みても身震いするほど素晴らしい。

 

忘れな賞を勝ってここに挑んだ上がり馬ツインヴィオスも3着と健闘はした。そして、桜花賞3着ノーザンドライバーが4着、堅実スカーレットブーケが5着といずれも善戦。

ただ、この馬たちはいずれも道中も4コーナーでも、ルーブルのつくる流れにうまく乗って、それでも善戦止まりであった。その点からもシスターの末脚は際立っていた。それら実力馬を一頭、また一頭と抜かし、ついにはツインヴォイスも交わした後は眼前をゆく馬はイソノルーブルのみ。

 

時代が違うとはいえ、基本ダービーにもオークスにも勝利のポジションがあり、4コーナーで中団より前に位置しなければほぼ勝ち負けは難しい。そういう意味でこのシスタートウショウほど規格外の位置から脚を使った馬が他にどれだけいたかと記憶を遡ってみてもそうは思い浮かばない。

ダンスパートナー? ジェンティルドンナ?

確かに彼女らも豪脚ではあったが、それらですらシスターのオークスの末脚の迫力には及ばない。

大好きなシスタートウショウなのでひいき目あはるだろうが、客観的に見たって凄いはず。

だって、リアルタイムではシスタートウショウのことなど知らなかった私が、映像でその姿を見て一目ぼれしてしまったほどなのだから。

 

ラスト200m。逃げたルーブルですら12.0の脚は使っているのだから決して脚色は鈍っていない。しかし、鈍ったように見えてしまうシスターの末脚。逃げるルーヴル、追い詰めるシスター。なんと実況のしがいのある展開か。競馬の神は時にこんなにもドラマティックなレースを演出できるものなのか。

最後は、「ここまできたならシスターに勝たせたい!」という思いと、「裸足のシンデレラがここで真のシンデレラに!」というファンの思いも交錯したことだろう。

そのエンディングは鼻差でルーブルに軍配があがった。

 

“どちらにも勝たせたかった選手権”があるならば、私はウォッカvsダイワスカーレットの天皇賞(秋)、グラスワンダーvsスペシャルウィークの有馬記念と並べて本レースを選ぶだろう。

 

レース後、まだ若手騎手だった角田騎手への批判の声があがったという。のちに角田騎手自身も、もう少し自分が上手に乗れていたらシスターを勝たせてやれたのではというようなことを語っていた。

確かに、あのレースで最も強い競馬を見せたのはシスタートウショウであり、乗り方ひとつで楽勝もあったように思う。

しかし、レースには負けたが記憶には残った。

リアルタイムでは見ていない私ですら、29年後の今もこうしてこのレースを語り継ぎ、このブログを更新し終えたら、そのオークスを再び観ようと思っているのだから。

そして、このレースに関しては、「裸足のシンデレラの逆襲」というストーリーで良かったかもなと今なら思えたりもする。

 

そして、このレースがいかに死闘であったかは2頭のその後が物語る。

イソノルーブルは故障のためエリザベス女王杯を体調が整わないままぶっつけで使う羽目になり、レースでも春とは別馬かと思うほどの精彩のなさで16着と大敗、そのままターフを去った。

シスタートウショウは速い馬の宿命ともいえる屈腱炎を患い、一年半もの休養を余儀なくされた。復帰は果たしたもののその後勝ち鞍に恵まれず、結局、桜花賞当時の輝きはついぞ戻らなかった。

 

ちなみに、私が今まで見てきた馬の中で最も美しい馬と感じているのがシスタートウショウだ。

さて、その美しい姿、美しい走りを閲覧しにいくとするかな。

オークスの予想はまたその後で。

 


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