『絶体絶命』
かつて山口百恵が歌うそんなタイトルの曲があった。
1人の男を前に対峙する奥方と不倫相手が、男に「どっちを選ぶかハッキリしなさい!」と詰め寄る何ともセンセーショナルな楽曲だ。これぞ、ザ・昭和歌謡曲といった感じ。
これを百恵ちゃんが低音でドスを利かせて歌うのが何とも様になっていた(その頃の彼女はまだ19歳だったのだけど)。
この曲の後にかの名曲『いい日旅立ち』をリリースするのだから、さすがは伝説のアイドルと言われるだけあって、その変幻自在な変わり身たるや見事なものだ。
つい先日、そんな百恵ちゃんの楽曲が、サブスク音楽配信サービスに解禁されたようなので、ぜひとも若い世代にも聴いていただきたいものだ。
そんな私自身は、百恵ちゃんはリアルタイム世代ではなく、明菜ちゃん世代だったことは念のためお伝えしておこう。まぁ、明菜ちゃんが好きな人は、その系譜の元祖ともいえる百恵ちゃんもほぼ好きだとは思うが。
…って、ここは昭和の歌姫を語る場ではなかった。
実は今朝、恒例のその週のG1の思い出を振り返っていたら、あるレースのワンシーンと同時に、先の『絶体絶命』のフレーズまで脳裏に流れてきてしまったのだよ。
競馬には絶体絶命のシーンは数あれど、パッとそのシーンが思い浮かぶとしたら、それは、いちょうSの時のエアグルーヴと、安田記念のウオッカの直線シーンだ。
ウオッカといえばその記録のすさまじさもさることながら、記憶に残るという意味ではアーモンドアイをも凌駕する言わずと知れた名牝。
アーモンドアイが今後いくつタイトルを重ねようとも、ウオッカがなしえた“牝馬によるダービー制覇”という輝かしい称号は得ることができないし、おそらく自分が生きている間にこの偉業を達成する牝馬は出てこないのではないか。
そんな別格的存在が、ヴィクトリアマイルを7馬身(ここでもアーモンドアイの4馬身を超えている)で制して挑んだ安田記念。
すでに前年も勝っていたので、連覇を狙ったこのレースでは、牡馬が相手でも関係なく1.8倍の圧倒的な支持を集めていた。このあたりも今年のアーモンドアイとどこか通ずる臨戦である。
そんな、「普通に走ればまぁ大丈夫でしょ」と思われていたウオッカに訪れた試練は、余裕の手応えで向かった直線でのこと。わずかな隙間をライバルだったディープスカイに奪われて前が壁となってしまった。それも尋常ではない壁。馬の絶壁。
いくら強い馬でも、直線でアクセルの踏み遅れがあれば、それは即命取りに繋がる。競馬ではよく見られるシーンではあるのだが、それがG1で1倍台の馬の身に起きてしまうと心穏やかではいられない。まさに絶体絶命。阿鼻叫喚。
私も確か、「あ、え、豊、バカー、何やってんだーーー!」
しかし、そんな絶体絶命をくぐり抜けられるのが名馬なのだろう。
今これを記しながら、ふと脳裏に有馬記念時のテイエムオペラオーが、絶体絶命の状況下から、年間G1全制覇を成し遂げたあのシーンも浮かんできた。名馬の中の名馬というものは、時に人知を超えた力を発揮するようだ。
そして、絶体絶命だったはずのウオッカも、アクセルとブレーキを同時にかけているような状況の中、なんとか馬一頭分の進路を確保してからは、持ち前のエンジンに火をつけて一気に噴射。このように急なギアチェンジに対応できるのも、いかにウオッカの身体能力が高いかを物語っている。そして、相当な精神力の持ち主でないとこの芸当はできない。
2着ディープスカイとの差はわずか3/4馬身差ではあったが、その力の差は歴然であった。
とはいえ、2着がディープスカイであったこともまたウオッカの価値を高めたことも確かだ。ディープスカイとて相当に強い馬で、ウオッカの翌年のダービー馬でもある。
ウオッカとは前年秋の天皇賞、ジャパンCですでに激突していた。
初対戦となった天皇賞は、着差こそ僅差もウオッカ、ダイワスカーレットの牝馬頂上決戦の引き立て役にとどまった。しかし、次のジャパンCでは勝利こそ逃したものの、早くもウオッカ(3着)超えを果たす2着。
当時3歳の若武者がこの時点で完成の域に達したウオッカと勝ち負けできたという事実に、翌年はいよいよウオッカ超えを果たし、天下を取るのでは思ったものだ。
そして、三度相対したこの安田記念こそが決着の舞台であったはずだが、着差はワンツーでも、この時のディープスカイはウオッカの引き立て役でしかなかった。
さらにこの一戦後、次の宝塚記念も3着と取りこぼしたディープスカイは、天下取りの夢叶わずそのままターフを去り、秋にジャパンCを制したウオッカとは対照的な引き際となってしまった。まるで安田記念でウオッカにすべての精気を吸い取られてしまったかのように…
本来なら私の中でベストの安田記念はノースフライトが勝った年なのだが、ウオッカは今年のアーモンドアイに通ずるものがあったので取り上げてみた。昨年、絶体絶命のシーンから勝利を得るまでには至らなかったアーモンドアイがそのリベンジを果たすのか?
その偉業はヴィクトリアマイルの内容を見ると容易にも感じるが、ウオッカが連覇を達成したその年は、ディープスカイ以外にめぼしいライバルがいなかったことも事実である。
当時、他にG1を勝っていたのはマイル実績に乏しいローレルゲレイロと、既に前年の安田で下していて峠も過ぎていた外国産馬のアルマダのみ。ディープスカイを凌いだあの走りをおとしめるつもりはないが、そんな相手だからこそ絶体絶命を凌げたともいえそうだ。
かたや今年、アーモンドアイに対陣する面々は、春秋マイル王インディチャンプを筆頭に、グランアレグリア、ダノンプレミアム、アドマイヤマーズといったG1ウイナー。ノームコア、ペルシアンナイト、ケイアイノーテックらが霞むほどだが、彼らもれっきとしたG1馬。G1級の力を備えるという意味ではダノンキングリー、スマッシュも該当するだろうし、この豪華絢爛な面々を相手にG1を連勝するようだと、いよいよアーモンドアイが現役のまま神格化されてくるだろう。
その伝説的瞬間をリアルタイムで見られると思うと、今から胸が高鳴ってしかたがない。
とはいえ予想家としては、アーモンドアイ絶対とは考えず、不安要素もさぐりつつ、その間隙を突ける馬たちも探していきたいと思う。
今週もどうぞ応援よろしく。
1970年代生まれ。生粋のギャンブラー(中央競馬のみ)でありながら、自然散策や温泉、寺社仏閣巡りなど一見すると相反するような殊勝な趣味を持ち、毎週のように出かけているので馬券は旅先で買うことが多くなっている。便利な現代に感謝。ほか、三国志や中韓歴史ドラマをこよなく愛し、中国4000年の歴史を持つ気功や太極拳などもかじっている。実生活では愛猫との2人暮らし。セミリタイアを夢に、競馬だけでなく、株式投資やFX、せどりなどいろんな金稼ぎには大いに興味あり。このブログもアフィリエイトやGoogleアドセンスを始めるきっかけとして立ち上げた。